東京地方裁判所 平成10年(ワ)15855号 判決
当事者の表示 別紙当事者目録記載のとおり
主文
一 被告らは、原告に対し、それぞれ、別紙一覧表1の「金額」欄記載の各金員及びこれに対する同一覧表の「起算日」欄記載の各日から各支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。
二 訴訟費用は被告らの負担とする。
三 この判決は仮に執行することができる。
事実及び理由
第一原告の請求
主文第一項と同旨
第二事案の概要
本件は、更生会社の管財人である原告が、更生会社は、被告らが銀行から金銭を借り受けた際、被告らの委託を受けて右貸金債務を保証したところ、銀行から右保証債務履行請求権をもって更生会社の銀行に対する預金債権とその対当額において相殺するとの意思表示を受けたと主張して、被告らに対し、保証委託契約による求償債権に基づき、代位弁済金及びこれに対する相殺日以降の日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による利息の支払を求めた事案である。
一 争いのない事実等(末尾に証拠等を掲記するもの以外は争いがない。)
1 原告は、平成六年一二月二日午後五時三〇分、東京地方裁判所において会社更生手続開始決定を受けた株式会社真里谷(以下「真里谷」という。)の管財人である。
2 被告らは、いずれも、別紙一覧表2の借入日欄記載の日に、真里谷経営のゴルフ&カントリークラブ「グランマリヤ」(以下「グランマリヤ」という。)の会員権取得資金に充てるため、株式会社さくら銀行(合併前の商号は株式会社太陽神戸銀行、旧商号は株式会社太陽神戸三井銀行。以下「さくら銀行」という。)から、同一覧表の借入額欄記載の金員を、最終弁済期は同一覧表の最終弁済期欄記載の日、利息は同一覧表の利率欄記載の利率、弁済方法は元利金を最終弁済期まで割賦弁済する、遅延損害金は年一四パーセント(年三六五日の日割計算)と定めて借り入れた(以下「本件各消費貸借契約」という。右約定につき、甲エないしキ、ケ、シ、ス、ナ、ハ、フ及びムの各二、テの三、四)。
3 被告らは、真里谷に対し、本件各消費貸借契約締結の際、その保証を委託し(以下「本件各保証委託契約」という。)、真里谷は、平成元年一一月二九日、さくら銀行との間で、予め本件各消費貸借契約に基づく被告らの各債務につき包括的に保証契約(以下「本件保証契約」という。)を締結した(被告マリーナ株式会社の保証委託につき、甲テ五、六、本件保証契約締結の日につき、弁論の全趣旨)。
4 被告らは、いずれも、同一覧表の借入日欄記載の日ころ、真里谷との間において、グランマリヤの利用を目的とする入会契約(以下「本件各入会契約」という。)を締結し、そのころ、真里谷に対し、入会金(その消費税相当額を含む。)及び会員資格保証金(以下「預託金」という。その金額は同一覧表の預託金欄記載の金額である。)を支払った(以下、本件各契約による取引を「本件取引」ということがある。)。
5 真里谷は、グランマリヤについて、平成四年度中の完成予定を掲げて、会員を募集し、平成二年三月に造成工事に着手したが、資金不足のため、平成四年三月に荒造成段階で工事を停止し、平成六年一二月二日には右1のとおり会社更生手続開始決定を受け、その完成の目途は立っていない。
6 さくら銀行は、同一覧表の相殺日欄記載の日に、真里谷に対し、本件保証契約に基づく保証債務履行請求権(その金額、内訳は同一覧表の代位弁済額欄、元本欄、利息欄及び損害金欄記載のとおりである。)をもって、真里谷のさくら銀行に対する預金債権とその対当額において相殺するとの意思表示をした(被告金子享一(以下「被告金子」という。)、被告久保正和、被告株式会社柏鵬(以下「被告柏鵬」という。)、被告マリーナ株式会社、被告株式会社古賀自動車、被告比護寿貴及び被告株式会社アーバン開発の関係で、甲エ、オ、ス、テ、ナ、フ及びムの各一)。
二 本件の争点
1 被告桑原幸彦(以下「被告桑原」という。)らの相殺の意思表示の有無、その効力及び真里谷の黙示の放棄の有無
(被告桑原、被告佐久間正義、被告竹垣雅史及び被告山内秀敬の主張)
(一)(1) 被告桑原ら四名は、真里谷に対し、平成五年一二月二四日到達した内容証明郵便により、グランマリヤの開場不能という真里谷の債務不履行を理由として、本件各入会契約を解除する旨の意思表示をした。
(2) 右被告らは、その際、入会金及び預託金の返還を請求せず、その時点までにさくら銀行に対して支払った分割弁済金を損害金として請求しただけであり、更生債権の届出においても、右金額を届け出ただけで、預託金等については届け出なかった。それは、右被告らとしては、仮に真里谷がさくら銀行の相殺により求償金債権を取得したとしても、預託金及び入会金返還請求権をもってその対当額において相殺する意思であったからであり、右解除の意思表示ないし更生債権の届出は、右相殺の意思表示を含むものである。
(3) なお、右相殺は、会社更生法一六三条二号本文に該当しないし、仮に該当するとしても、同号ただし書に該当する。
(二) 原告が本件各求償債権の請求をするまで、真里谷はその請求をしなかったから、真里谷はさくら銀行の相殺の時に本件各求償債権を黙示的に放棄したものである。
(原告の認否)
(一) 右(一)の(2) の事実は争う。
右被告らの相殺は、会社更生法一六三条二号本文に該当し、同号ただし書に該当しないから、許されない。
(二) 右(二)の事実は争う。
2 被告金子らの契約解除権ないし不安の抗弁権の有無
(被告金子、被告久保正和、被告比護寿貴及び被告アーバン開発株式会社の主張)
(一) 本件各求償債権は、真里谷が本件各入会契約において被告らに対し有していた入会金及び預託金債権の変形物であり、真里谷が行使する限りにおいて法的にはそれと同一のものと評価できる。すなわち、被告らが負担する本件各入会契約上の入会金及び預託金債務は、真里谷と被告らとの間にさくら銀行が介在することにより本件各消費貸借契約上の債務となり、真里谷の保証債務の履行により本件各求償債務となっても、本件各求償債権の権利者が真里谷に戻った以上、当初の本件各入会契約上の権利義務関係が復活するものと解すべきである。
そうすると、本件各入会契約に基づき、右被告らには入会金及び預託金債務が残存し、真里谷にはグランマリヤを完成させてその利用を提供すべき債務が残存しているのであり、双務契約における債務がいずれも未履行の状態となっていたというべきである。
(二) 前記一の5のとおり、真里谷のグランマリヤを完成させてその利用を提供すべき債務は、社会通念上、遅くともさくら銀行が相殺の意思表示をした平成五年一一月一九日には履行不能に陥った。
(三) 被告金子ら四名は、平成一〇年一一月九日の本件口頭弁論期日において、真里谷の右履行不能を理由として、原告に対し、本件各入会契約を解除する旨の意思表示をした。
(四) 仮に右解除が認められないとしても、右被告らが入会金及び預託金債務の変形物である求償債務を履行しても、原告がグランマリヤを完成させることは不可能であるから、右被告らに本件各求償債務を履行させることは公平の理念に反するのであり、右被告らは不安の抗弁権をもって本件各求償債務の履行を拒絶できる。
(原告の認否)
右(一)、(二)及び(四)の事実及び主張は争う。
3 被告らの支払拒絶権の有無
(被告ら(ただし、被告小田嶋伸和を除く。)の主張等)
(一) 会社更生法一〇三条の規定による支払拒絶権(右被告ら)
(1) ゴルフ会員権のローン提携販売は、何よりもゴルフ会員権の販売とその代金の回収、大衆資金の獲得を容易にするというゴルフ場を経営する会社(以下「ゴルフ場会社」という。)の利益のための仕組みであり、それが同時に購入者側にとっても便利であり、また金融機関にとっても利益になる仕組みであった。このようなローン提携販売の経済的機能を直視すれば、金融機関による融資、ゴルフ場会社による保証及びゴルフ会員権の販売は、ゴルフ場会社が会員権を販売し、購入者がその代金を支払うという単純な売買にほかならないのであり、ローン提携販売の本質は、ゴルフ場会社と購入者との間の売買取引を変形させただけのものである。最高裁判所昭和五一年一一月四日第一小法廷判決・民集三〇巻一〇号九一五頁は、自動車のローン提携販売において、販売業者が買主の金融機関に対し負担する借入金債務を代位弁済して取得した求償債権を行使した事案につき、いわゆるローン提携販売において、商品の買主が売主に対し負担する求償債務は、その実質において割賦販売代金と異なるものではないと判示している。そうすると、本件取引はローン提携販売であり、真里谷が被告らに対しゴルフ会員権を月賦分割払で直接販売したと同一というべきである。
したがって、本件には、会社更生法一〇三条の規定の適用がある。
(2) また、ローン提携販売における、金融機関と購入者との間の金銭消費貸借契約及びゴルフ場会社と金融機関との間の保証契約は、ゴルフ場会社によるゴルフ会員権の販売という一つの目的を達するために締結された、実質上包括的一個の契約が締結された状況であると、法的にも経済的にも評価することができる。そうすると、本件取引は、法的にも経済的にも、実質上包括的一個の契約が締結されたと評価することができるのであり、最終的に残った被告らのグランマリヤの開場請求権と原告が主張する本件各求償債権とは、衡平の観点からすると、互いに対価関係にあり、法律上及び経済上相互に関連性を有し、担保しあっているのである。
したがって、本件には、会社更生法一〇三条の規定の適用ないし類推適用がある。
(3) なお、原告は、被告らがグランマリヤの会員権を喪失したと主張するが、被告らの真里谷に対する連帯保証依頼書の誓約事項四項後段の規定は、真里谷がさくら銀行の請求により保証債務を履行した場合に、自動的に会員資格を喪失することを定めたものではなく、真里谷の選択により会員が会員資格を喪失することがあり得ることを了承するものにすぎない。
(4) したがって、被告らは、会社更生法一〇三条の規定の適用ないし類推適用により、真里谷から完成したグランマリヤの利用の提供があるまで、本件各求償債務の支払を拒絶できる。
(二) 提携ローン販売における求償権の性質による支払拒絶権(被告柏鵬)
前掲最高裁判所昭和五一年一一月四日第一小法廷判決によれば、ローン提携販売において、販売業者が保証債務を履行した場合、一般法理が修正され、その求償関係は代位弁済者たる販売業者と購入者の売買契約関係に引き直される。
したがって、被告柏鵬は、販売業者真里谷の更生管財人である原告に対し、グランマリヤの未開場を理由として本件求償債務の支払を拒絶できる。
(原告の認否及び主張)
(一) 右(一)の(1) のうち、本件取引がローン提携販売であることは認めるが、それが単純な売買であること、真里谷が被告らに対しゴルフ会員権を月賦分割払で直接販売したと同一であることは否認し、本件に会社更生法一〇三条の規定の適用があるとの主張は争う。(2) の事実は否認し、主張は争う。(4) の主張は争う。
被告らの右主張は経済論ではあっても法律論ではない。一定の経済的目的を達成する方法としてどのような法律構成を採るかは、公序良俗又は強行法規に反しない限り、当事者の自治に委ねられている。真里谷がグランマリヤの会員権の販売という目的達成の手段としてローン提携販売を採用した面があるとしても、それは購入希望者のために購入の便宜を提供したにすぎないのであって、提携ローンを利用するか否かは全く購入者の任意の選択に委ねられていたのである。このような便宜の提供が公序良俗又は強行法規に反しないことは明らかである。
また、ゴルフ場の入会契約は、預託金全額の支払があって初めて会員資格を取得し、ゴルフ場会社に対し開場及び施設利用を請求し得る契約であり、預託金支払義務が先履行の関係にあるのであって、本件各契約においても同様であるから、グランマリヤの未開場は、被告らが原告に対し同時履行を主張する根拠とはなり得ない。
したがって、本件には会社更生法一〇三条の規定の適用ないし類推適用はない。
(二) 右(二)の主張は争う。
(三) 本件各保証委託契約には、被告らの債務不履行のためさくら銀行の請求により真里谷が保証債務を履行した場合、被告らがグランマリヤの会員資格を喪失することを了解する旨の約定がある(被告らの真里谷に対する連帯保証依頼書の誓約事項四項後段)。右約定は、停止条件付会員資格喪失事由を定めたものであり、真里谷がさくら銀行の請求により保証債務を履行した場合には、当然に、被告らがグランマリヤの会員資格を喪失する旨の約定である。前記一の6のとおり、真里谷はさくら銀行に対し本件各消費貸借契約の保証債務を履行したから、被告らは、いずれもグランマリヤの会員資格を喪失したものであり、真里谷に対しグランマリヤの開場及び施設利用を請求し得る権利を有していないのである。
したがって、被告らは、グランマリヤの未開場を理由として本件各求償債務の履行を拒絶することはできない。
4 権利濫用ないし信義則違反の有無
(被告らの主張)
(一) 前記一の5のとおり、グランマリヤは、平成四年三月に荒造成段階で工事を停止し、現在に至るも工事は停止されたままであり、工事の再開、完成は資金的に不可能である。しかも、原告の主張によれば、被告らは真里谷の保証債務の履行により、会員権すら消滅したとされているから、仮にグランマリヤが完成する可能性があるとしても、被告らには将来グランマリヤにおいてゴルフをプレーできる可能性は全くないことになる。
(二) グランマリヤは、真里谷の経営の失敗により工事が中断されたものであって、被告らには何ら帰責事由はない。ゴルフ会員権のローン提携販売は、購入者のためにあるというよりも、むしろゴルフ場会社や金融機関のためにあったものであり、しかも、ゴルフ場会社と金融機関は、これを積極的に利用して、ゴルフ場の開場前からローン提携による会員権販売をあおり、いわゆるバブル期において、ゴルフ会員権の高騰を助長し、その結果が今日の経営破綻の事態を招いたのである。このような経営破綻の責任は購入者にはなく、ローン提携販売を利用した結果としてゴルフ場会社の犠牲にならなければならないほどの非難可能性は購入者にはないのである。
(三) 被告らは、グランマリヤの他の会員と異なり、さくら銀行からの相殺通知が届いた時点で、真里谷に対し、右債務不履行を理由として本件各入会契約を解除し、真里谷からの求償金請求に対しては、預託金等返還請求権をもってその対当額において相殺することが可能な立場にあったのである。
そして、被告らは右のような法的措置をとらなかったが、それには、次のとおり正当な理由がある。すなわち、被告らは、いずれも法律の素人であり、まして、会社更生とは何であるかなど全く無知であった。被告らは、さくら銀行から本件各消費貸借契約の分割弁済を止められ(被告らは、さくら銀行から、ゴルフ場の開設が大幅に遅れて完成の目途が立たないから、今後の支払はしなくてもよいと説明された結果、分割弁済を止めたのであり、被告らから進んで支払を拒んだのではない。)、その後、相殺通知が届いた時点で、ゴルフ場が完成しないことが確定したので、真里谷がさくら銀行から預金を取り上げられ、自己の未払のローンの清算は終了したという意識でしかなく、さくら銀行に対する既払分の損失は諦めざるを得なかったのである。被告らは、被告らに迷惑をかけ損害を与えた真里谷が、将来被告らに対し求償債権の支払を請求するなど想像もしなかった。まして、更生手続においては、債権届出期間内に届けなければ会員資格保証金返還請求権との相殺もできないなどという法律知識は極めて高度であって、被告らのような法律の素人にこれを期待することは、およそ非現実的であり、酷である。
このように、法律の専門家である更生管財人が、会社更生法を盾にとって、被告らが債権届出期間内に相殺の意思表示をしなかったことを理由に、その後に至り、被告らに求償債権を行使することは、権利の濫用の典型というべきである。
(四) 更生会社は、再生を目的としているのであり、最終的には更生会社の権利義務が復元され、更生管財人はそれまでの手続を公平に行うための過渡的な管理人にすぎない。そうすると、更生管財人が第三者的立場を強調して、その請求を正当化することは許されない。
(五) 被告らがさくら銀行から借り入れた金員は、さくら銀行から直接真里谷の預金口座に振り込まれている。さくら銀行が相殺の意思表示をした時点で、真里谷の預金口座に多額の預金が残存していた事情を考慮すると、右預金はまさに拘束預金にほかならない。借り入れた金員は、一度も被告らはおろか、真里谷にも渡っていないに等しい。したがって、被告らがさくら銀行から借り入れて真里谷に支払ったとされる会員資格保証金は、さくら銀行に預金という状態で残ったままであり、相殺によりさくら銀行に戻ったものと考えられる。したがって、真里谷が、形式的に求償権を行使して、被告らから金員を回収することは、真里谷のいわば不当利得を認めることと同一の結論となる。
(六) 右のとおり、原告の請求は、具体的公平の見地からすると、権利の濫用にほかならない。
(原告の認否及び反論)
(一) 右(一)のうち、グランマリヤが平成四年三月に荒造成段階で工事を停止し、現在に至るも工事は停止されたままであることは認め、その余は争う。
(二) 右(二)について、真里谷の責任は争わないが、被告らにも一斑の責任はある。
(三) 右(三)のうち、被告らが相殺権を行使し得る地位にあったことは否認し、その余の主張は争う。被告らが主張する相殺は、会社更生法一六三条二号本文に該当し、同号ただし書に該当しないから、許されない。
(四) 右(四)の主張は争う。原告は、真里谷の更生管財人であり、真里谷の債権者を中心とする利害関係人間の利害を調整すべき、真里谷とは全く独立の管理機構である。原告が本件各求償債権の一部でも回収することは大多数の会員ないし債権者の利益に叶うものである。
(五) 右(五)の事実及び主張は争う。
(六) 右(六)の主張は争う。
第三当裁判所の判断
一 被告桑原らの相殺の意思表示の有無、その効力及び真里谷の黙示的な放棄について
1 被告桑原ら四名が、真里谷に対し、平成五年一二月二四日到達した内容証明郵便により、グランマリヤの開場不能という真里谷の債務不履行を理由として、本件各入会契約を解除する旨の意思表示をしたことは原告において明らかに争わないから、これを自白したものとみなす。
証拠(乙カ一の1)によれば、右内容証明郵便には、右被告らが、真里谷の右債務不履行を理由として本件各入会契約を解除する旨の記載のほか、真里谷の右債務不履行に基づく損害金として、さくら銀行に対して支払った分割弁済金額を請求する旨の記載があるが、真里谷に対し入会金及び預託金の返還を請求する旨の記載やさくら銀行が同年一一月一九日にした相殺に言及した記載はなく、入会金及び預託金返還請求権と本件求償債権との相殺を窺わせる記載は全くないことが認められる。
右事実によれば、右解除の意思表示が入会金及び預託金返還請求権と本件各求償債権との相殺の意思表示を含むものと認めることは困難である。
また、右被告らが、更生債権の届出において、さくら銀行に対して支払った分割弁済金額を届け出ただけで、入会金及び預託金について届け出なかったことをもって、右更生債権の届出が預託金及び入会金返還請求権と本件求償債権との相殺の意思表示を含むものであったと認めることは困難である。
2 原告が本件各求償債権の請求をするまで、真里谷がその請求をしなかったとしても、真里谷が本件各求償債権を黙示的に放棄したものと認めることは困難であり、他に右事実を認めるに足りる証拠はない。
3 したがって、右被告らの主張はいずれも理由がない。
二 被告金子らの契約解除権ないし不安の抗弁権の有無
前記第二の一の2ないし4の事実によれば、真里谷と右被告らとの間において本件各入会契約及び本件各保証委託契約が、さくら銀行と被告らとの間において本件各消費貸借契約が、さくら銀行と真里谷の間において本件保証契約がそれぞれ締結されているところ、これらの契約は、法的には、当事者を異にする別個の契約であるから、被告金子らが主張するように、本件各入会契約の入会金及び預託金債務が、さくら銀行が介在することにより本件各消費貸借契約上の債務となり、真里谷の保証債務の履行により本件各求償債務となると解することはできない。
また、原告の本件各求償債権は本件各保証委託契約及び真里谷の代位弁済により生じたものであって、被告金子らが主張するように、真里谷が本件各入会契約において被告らに対し有していた預託金等債権の変形物であるとか、法的にそれと同一のものと評価することはできない。
そうすると、本件各入会契約における債務がいずれも未履行の状態となっていたということはできないのであって、右被告らの主張は、その余の点について判断するまでもなく、いずれも理由がない。
三 被告らの支払拒絶権の有無について
1 会社更生法一〇三条の規定による支払拒絶権
会社更生法一〇三条の規定は、双務契約における相互の債権が対価関係にあり、互いに他を担保し合う関係にある性質に鑑み、契約当事者双方の公平と企業の再建目的達成及び更生手続の円滑化のために特別に設けられたものである。したがって、同条にいう双務契約は、民法上の双務契約と同義であり、契約当事者が互いに対価的な意義を有する債務を負担する一個の契約をいうものと解すべきである。
前記第二の一の2ないし4の事実によれば、本件取引はローン提携販売に該当するということができる(平成一一年法律第三四号による改正前の割賦販売法二条二項一号参照)。
しかし、ローン提携販売における、入会者とゴルフ場会社との間の入会契約、金融機関と入会者との金銭消費貸借契約、金融機関とゴルフ場会社との保証契約及び入会者とゴルフ場会社との間の保証委託契約は、経済的、実質的に密接な関係にあることは否定し得ないとしても、法的には、契約当事者を異にする別個の契約であるといわざるを得ない。そうすると、金融機関による融資、ゴルフ場会社による保証及びゴルフ会員権の販売が、ゴルフ場会社が会員権を販売し、購入者がその代金を支払うという単純な売買であり、本件取引が真里谷において被告らに対しゴルフ会員権を月賦分割払で直接販売したと同一であると解することはできないし、また、包括的に一つの契約が締結されたものと解することもできない。被告ら引用の最高裁判所昭和五一年一一月四日第一小法廷判決は、本件と事案を異にし、本件に適切ではない。
右によれば、原告の本件各求償債権は本件各保証委託契約及び真里谷の代位弁済により生じたものであり、被告らのグランマリヤの開場請求権は本件各入会契約により生じたものであって、一個の双務契約における双方の債務であるとはいえないのである。
したがって、本件において、会社更生法一〇三条の規定の適用ないし類推適用があると解することはできない。
2 提携ローン販売における求償権の性質による支払拒絶権
ローン提携販売において、販売業者が保証債務を履行した場合、一般法理が修正され、その求償関係は代位弁済者たる販売業者と購入者の売買契約関係に引き直されると解することはできない。なぜなら、購入者と販売業者との間の購入契約、金融機関と購入者との金銭消費貸借契約等は、右のとおり、法的には、契約当事者を異にする別個の契約であるから、販売業者が保証債務を履行した場合、販売業者は購入者に対し求償債権を有し、購入者は販売業者に対し購入契約上の債権を有する関係にあるのであって、販売業者と購入者との売買契約関係ではないからである。
そうすると、被告柏鵬は、グランマリヤの未開場を理由として、当然に、本件求償債務の支払を拒絶できるものではない。
3 したがって、被告らの支払拒絶権の主張はいずれも理由がない。
四 権利濫用ないし信義則違反の抗弁について
真里谷が、グランマリヤについて、平成四年度中の完成予定を掲げて、会員を募集し、平成二年三月に造成工事に着手したが、資金不足のため、平成四年三月に荒造成段階で工事を停止し、平成六年一二月二日には会社更生手続開始決定を受け、その完成の目途が立っていないことは前記第二の一の5のとおりであり、弁論の全趣旨によれば、グランマリヤの開場の遅延は真里谷の責めに帰すべき事由によるものと認められる。
しかし、仮に被告らが、真里谷に対し、グランマリヤの開場遅延という債務不履行を理由として本件各入会契約を解除し、本件各入会契約に基づく原状回復請求権、損害賠償債権をもって、真里谷の有する求償債権と相殺することができたとしても、被告らが会社更生開始決定前又は会社更生法一六二条の規定の定める期間に相殺の意思表示をしなかったことは被告らの主張に徴し明らかであるところ、同条の規定は、企業の再建目的達成と更生手続の円滑化の趣旨で設けられたものであるから、被告らの相殺権が同条により制限されたとしても、そのことは権利濫用ないし信義則違反の一事情となるものではないというべきである。また、会社更生は、債権者、株主その他の利害関係人の利害を調整しつつ、企業の再建を図るものであり、観念的清算を手続の前提としているから、更生管財人は真里谷とは別個の地位に立つものと解される。
そして、さくら銀行が、被告らに対し、本件各消費貸借契約に基づく債務の分割弁済をしなくてよいと説明してこれを止めさせたこと、さくら銀行が、本件各消費貸借契約に係る金銭を拘束預金としておき、それが相殺によりさくら銀行に戻ったことを認めるに足りる証拠はない。
これらの事情を考慮すると、原告の被告らに対する本件各求償債権の行使が、信義に反し、権利の濫用に当たるとはいえない。
第四結論
よって、原告の本訴請求はいずれも理由があるからこれを認容する。
(裁判長裁判官 丸山昌一 裁判官 草野真人 裁判官清原博は転官につき署名押印できない。裁判長裁判官 丸山昌一)
当事者目録
原告 更生会社株式会社真里谷管財人 原田進安
右訴訟代理人弁護士 永島正春
同 三村藤明
同 田口穣
被告 金子享一
被告 久保正和
被告 アーバン開発株式会社
右代表者清算人 佐久間政芳
右両名訴訟代理人弁護士 吉成外史
同 星隆文
被告 桑原幸彦
被告 佐久間正義
被告 竹垣雅史
被告 山内秀敬
右四名訴訟代理人弁護士 古谷和久
被告 株式会社柏鵬
右代表者代表取締役 内藤康雄
右訴訟代理人弁護士 鈴木修一
被告 マリーナ株式会社
右代表者代表取締役 渡部茂
右訴訟代理人弁護士 金井重彦
被告 株式会社古賀自動車
右代表者代表取締役 古賀忠雄
右訴訟代理人弁護士 柏木義憲
被告 小田嶋伸和
被告 比護寿貴
(以上)